やっと光学的な話に一段落つきました。今回からはもうちょっと絵に近い話となります。

当教室でも使用しているペイントアプリ「クリップスタジオ」やその他アプリでもそうですが色を塗ろうとした時、どうゆう風に選択されていますでしょうか?

上画像はクリップスタジオのデフォルトでの表示されるカラーサークルになります。最初に円状の部分で色味を選んで、それから四角形の小さな〇を上下左右にスライドさせつつ、左下の枠の表示色を見て大体決めるのではないでしょうか?

サークルの下に「H」「S」「V」とありますけど、これはH=ヒュー:色相S=サチュエーション:彩度V=バリュー:明度 を表しています。英語での表記はしません、カタカナです。これはHSV色空間で色を決めますよ、色相を0~360、彩度を0~100%,明度を0~100%の数字で決めてくださいというものです。この「色相」「明度」「彩度」を色の三属性と言います。

前回コラムで「分光反射率特性」の話をしました。これによって「色相」が決まります。では「明度」と「彩度」は?

さて、アナログに戻って「モノ」を見てみます。

ライトの光が直接目に入ってきます。この色は「光源色」、赤い紙にあたった光が反射して赤を感じる。この色は「物体色」正確には物体色の表面色・反射物体色。この物体色には「透過色・透過物体色」というのもあって、これはステンドグラスを通った光はカラフルですよね。あれです。

ではこの「光源色」と「物体色」の色の明るさは何なの?「明度」のことなの?このあたりから似たような言葉や感覚的に近いんじゃない?と考えた言葉の意味をごちゃ混ぜにしているのではないかと思います。少なくとも私はそうでした。

電気器具や電球、モニターやスマホのカタログや専用サイトのスペック表を見ても、「明度」という欄は見当たりません。明るさ関係で記載されているのは「輝度」だけです。

日本色彩学会(編)「色彩用語辞典」によると「明度とは三属性のうち表面の明るさに関する量である。明るさが、ある領域が発している光の絶対的な量の大小にかかわる感覚量であるのに対して、明度とは、同じ状態で照明された白色面の明るさを基準として判断される表面の相対的な明るさを意味する言葉」とある。更に「明度は物体表面の反射率の高低に対応する感覚量であり、白さー黒さの程度を表すといえる。さらに、明るさは光源の光、あるいは物体表面の双方について適応できる属性であるのに対して物体表面(一般的には関連色)について定義される属性である。」と記されています。

復習もになりますが、照度は光源から物体に入ってくる光の強さです。「光源からある面にどれだけの光が到達しているか」なわけです。これが「明るさが、ある領域が発している光の絶対的な量の大小にかかわる感覚量」の部分です。単純に照度を上げた場合(上図では電池が直列繋ぎになってます)、濃いグレーの紙が明るく見えます。明度が上がっているように見えますが、となりの基準となる白色面も明るくなって見えます。つまりこの比率は変わりません。これが「明度とは、同じ状態で照明された白色面の明るさを基準として判断される表面の相対的な明るさ」の意味するところです。

じゃあ照度が上がって明るくなったように見えるのは何?となるでしょう。明度じゃないなら何!となるでしょう。これは紙が二次光源化して「輝度」が上がっているんです。

明るさは「光源色」にも「物体色」にも使える便利な言葉だけど、「明度」は物体色について定義された言葉で、光源色には使わない言葉なんです。と、いう事はこの「明度」、視覚化・認識するためには光が必要ですが、明度自体はモノに存在しているんです。お~これで「【日常の一コマ】きっかけはちょっとしたことから【色についての考察】」の伏線回収が出来ました。

上図は「明度は物体表面の反射率の高低に対応する感覚量であり、白さー黒さの程度を表す」を図式化したものです。大元の基準となる「完全拡散反射体」は前回コラムで説明しましたので省略させていただきます。ここで大切なのは反射率(厳密に言うと輝度率。※輝度ではありません)。(「反射率=観測点(目)が受け取る光の明るさ(輝度)+どっかに拡散反射した光の明るさ」です。当然人の目が受け取らないと感じないわけですから方向の指定が付きます。なので厳密に言うと輝度率と伝えました)。それゆえ「明度」とはモノの特性である「反射率(輝度率)」による結果であると言い換えることが出来ます。※輝度率と輝度は異なるものなので注意してください。輝度率は物が持っている特性です。輝度は光の特性です。

上図は一連の流れを図式化したものです。「光源」が「光束」をグレーの紙に照射し、「照度」を作ります。その照度が紙によって吸収・透過され、拡散反射する。その一部は観測点・目に入り込み、残りはどこかに拡散反射してしまう。

それにしても上図はどこかで似たような物を見たような気がしませんか?

そう、分光反射率特性の時に出た図です。「明度」の場合は光を「どのくらい」吸収・透過し、反射するのかという、いわば「量」だけを問題にしていて「質」については問題にしていません。だから図の光もグレースケールのみとなっています。この考え方がマンセル表色系の明度の考え方そのものになります。それに対して「分光反射率特性」はその名の通り「分光」、つまり光を波長ごとに分解し、「どのような」波長を吸収・透過し、反射するのかに注視したものになります。混同しないようにしてください。

長くなりましたので「彩度」については次回にいたします。今回もCCS株式会社様、色彩用語辞典、色彩概論、他多数サイト様のお世話になりました。御礼申し上げます。

この記事を書いた人

スタッフ門前
おとなの美術室スタッフ
おとなの美術室事務スタッフ。 門前の小僧習わぬ経を読むから命名。サブカルをこよなく愛するナイスミドルである。一時期ブログ投稿を降板させられたが、10周年を機に復帰。