門前です。今回は当教室で教えている講座の中で、アート系を含めれば日本で最も展開されている教室の数が多いのではないかと思われる「デッサン・クロッキー系」の講座、『画力向上のためのデッサン・クロッキー基礎講座』を担当していただいている『篠原先生』です。

絵の上手い方に何をやれば上手くなれるか聞くと、ほぼほぼ「デッサン」と返ってくるでしょう。では篠原先生の教えるデッサンは何が違うのでしょう?突っ込んで聞いてみます。

 

【門前:以下門】2015年4月より登壇していただき、7年以上になるのですね。講義内容やスタイルについては極力口を出さず、篠原先生にゼロから組み立てていただいておりますが、Q.教室で伝えたかった事は何になりますか?

【篠原先生:以下篠】たくさんあります。大きく分けて項目だけでも4つ。
1.観察の技術
2.受講生の絵の特性
3.目的に合わせた練習の方法
4.クロッキーの基礎

1.観察の技術
「観察力」は絵を描くために最も必要な力です。描く技術があるように、観察にも実は技術があります。描く技術に関する情報は本や動画で伝えやすいので広く世に出回っていますが、観察の技術は対面でなければ伝わりにくいので、まだほとんど知られていません。
観察力がもともと高い方は本や動画で描き方を学べば独学でも上達するけれど、観察力がない方は描き方を学んでも思うように描けるようになりません。上達しなくて悩んだり、才能がないと思って諦めかけている人に、観察の技術を伝えたいのです。まだまだ伸び代があることを知ってもらいたい。デッサンやクロッキーを通じて観察力を磨けば、センスがない人でも絶対に上達します。

2.受講生の絵の特性
自分自身の絵の長所と短所を理解することで、自分に必要な練習が分かるようになります。しかし客観的に自分で把握するのは困難です。理由はほとんどの人は自分が好きなものしか描かないし、得意な描き方でしか描かないからです。
色々なものを描き、色々な方法で描くことで絵を描く時の長所と短所が浮かび上がります。私は絵の分析が得意です。受講生の絵の特徴を分析して、必要な練習方法を提案します。

3.目的に合わせた練習の方法
絵画を描きたい人、漫画を描きたい人、イラストを描きたい人では必要な能力が違います。描きたい作品に合わせた練習をすれば早く上達します。
マンガを描きたいなら早く正確に描く力が必要なので短い時間のクロッキーが合っているし、密度が高いイラストが描きたいなら長時間のデッサンが合っています。
個人の特性と作品の目的に合わせた練習の方法がわかれば、「もっと早くもっと確実に」上達します。

4.クロッキーの基礎
デッサンの勉強は画力が低い初心者には負担が大きく苦痛です。今まで運動をしたことがない人にいきなりフルマラソンを走らせるようなものです。まずは無理のない距離で練習をして体力をつけてから、徐々に距離を伸ばした方が挫折する人は少ないと思います。
今まで絵を描いたことがない方にデッサンをさせると、何をしたらいいのか分からなくなるので多くの方が挫折します。ぼくも高校生の時に挫折して2年ほどクサクサしていました。
だから始めは「クロッキー」を教えます。輪郭で描くクロッキー、明暗で描くクロッキーなど、デッサンで学ぶ要素を分解して短い時間で数多く練習します。
クロッキーは一枚に時間をかけないので失敗してもダメージが少ないのが良いところです。
デッサンよりたくさんの枚数を描いて、たくさんの失敗を経験して修正する練習ができるからデッサンよりも早く上達します。クロッキーをしてからデッサンを学べば、全くの初心者でも楽にデッサンを学ぶことができます。

これらから少しでも受け取ってもらえれば着実に前進できると考えています。

【門】盛りだくさんですね。細かく説明していただけるので突っ込む必要も無いくらいです。もともとは子どもにも教えていたとのことですが、対象がおとなに変わってQ.講義時に気を付けていたことはありますか?

【篠】とにかく分かりやすく、ロジカルに説明をする。一人一人の目的とレベルに合わせて指導をする。描けない原因は描く過程に現れるので、過程を丁寧に観察する。集中が切れてダラダラ描かないように複数の課題で授業を構成する。小手先のテクニックではなく本質的な力をつける指導をする。といったところでしょうか。

【門】なるほど、擬音語や擬態語に頼った感覚的な説明では再現性が高くないですからね。男性と女性では違うのかもしれませんが、私も理屈は大切だと思います。毎回の授業の冒頭こそ全体レクチャーが行われますが、その後は基本的に個別指導となってますね。20~30年前のデッサン系の授業と言ったら、教わるというよりとにかく描いて(描かされて)「ココが違う」とだけ言われ続け、鬱々としがちなイメージがありましたが、今は違うのですね。それではこれから10年先を見据えて、Q.これから伝えたいことは何ですか?

 【篠】一から絵を始めたいけど何をしたらいいのかわからない方、本や動画で勉強したけれど上達しなかった方、自分の可能性をもっと広げたい方に、『観察の技術と理論』『受講生の特徴の分析』『目的に合わせた練習の方法』『クロッキーの基礎』を伝えて、自分の画力が向上することで作品が成長する楽しさ、自分の可能性が広がる喜びを体験して欲しいと思っています。
AIやアプリの効果では味わえない、自分で描く喜び、上達の手応えを伝えたいですね。だって上手くなったら理屈じゃなくてうれしいじゃないですか。

【門】特に最後の言葉は全く同意です。今後行きつく先、最後に残るのは『好きだから描く』なのかも知れません。と、きれいにまとまったところで今回はここまでとします。


次回に続く

この記事を書いた人

スタッフ門前
おとなの美術室スタッフ
おとなの美術室事務スタッフ。 門前の小僧習わぬ経を読むから命名。サブカルをこよなく愛するナイスミドルである。一時期ブログ投稿を降板させられたが、10周年を機に復帰。